Naoki Matayoshi
1980年大阪府寝屋川市生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。コンビ「ピース」として活動中。2015年『火花』で第153回芥川龍之介賞を受賞。著書に、『第2図書係補佐』『東京百景』などがある。
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バイト先で知り合った自称芸術家の肥後久(27)が、はじめて浅草で作品を展示すると聞いて、とくに好奇心を駆り立てられるものはなかったのだが、偶然浅草に用事があったので、数年前に一度だけ行ったことのある肥後のマンションを訪ねてみた。
その日はちょうど、展示会の初日だった。ノックをしても返事がないので、なかに入ってみた。完成しているのかしていないのか、よく解らないものが沢山転がっていたが、肥後の姿は無かった。肥後の寝室を覗いてみると、そこにも肥後はおらず、枕もとにあった肥後の手記をなんとなくめくってみて、どのような事態が起きているのか理解できた。
肥後久は、「作品展の前日に作りかけの作品だけを残して逃亡したのだ」。手記を読み進めると、いかに彼がこの作品展に参加することになったのか、そして彼がどのように精神的に追い込まれていったのかが、読み取れた。私は簡単に部屋の掃除をして、手記に書かれていた、作品の説明になる部分だけを重点的にパソコンで打ち直し、プリントアウトした逃亡したことによって、私は俄然、肥後久に対する興味がわいてきた。彼の心に迫りたいと思った。
正直、初日ということもあって、まだこの文章も完成していない。知り合いだからといって、このようなことを勝手にしていいのか、迷うところではあるが、万が一、私とおなじように肥後に誘われてここまで来る人がいるかもしれない。その人達に対する、せめてもの責任を果たせたらとおもう。
まだまだ、途中までしか文字にできていないが、この未完成の文章を作品に添えることにする。これから書く内容にはタイトルだけを付けておく。
どうか、弱い肥後久を責めないでやっていただきたい。
執筆者・かつてのバイト先の知り合い